2007年 12月 06日
第一章「三月」 |
1.物語は主人公が知らないところで動いていました。
「れいー、えみー。いるーぅ?」
安田家に、買い物から帰ってきた桜子の声が響く。
「何~?」返ってきた返事はひとつ、次女の映見(えみ)のものだけだった。
トントントンと二階の自分の部屋から降りてきた彼女はキッチンにいた桜子に、
「お姉ちゃんは五月祭の準備で今日も出かけてまだ帰ってきてないよ」
と告げると、冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注いで飲んだ。
そんな娘を見て、ま、取り敢えずはひとりでもいいかと言う顔で、
「あのね言い忘れてたんだけど、今日から我が家に家族が一人増えます。じゃじゃじゃーん、凄いでしょう?」
と、得意げに告げた。
「わー凄いすごい!パチパチ……って言うと思いますか、桜子さん」
映見は手に持ったコップをテーブルに手荒に置くと、きつい表情で桜子を見つめる。
「え、言わないの?……しょぼーん」
娘の一人ボケ一人突っ込みに成長を感じながらも寂しげにつぶやく桜子であった。
「当たり前です。そんなこと突然言われても、何の用意もしていないのにどうするんです?」
「そうね、確かに用意はしなきゃ」
「で、いつなの予定日は?男の子?女の子?」
「え、誰か子供産むの?映見、お前まさか隣の実君と…」
「え?桜子さんじゃないの?」
お互いに顔を見合わせる二人。
「義宏さんとはかれこれ一年以上も……ぽっ」
「いや、口で『ぽっ』なんて言わなくても十分顔が赤いですし、それ以前に聞いてる私のほうが恥ずかしいんですけど」
「どうやら意思の疎通がお互い出来ていなかったみたいだわね」
ようやく、気を取り直した二人は話を整理し始めた。
「まず第一に家族が増えます。これはOK?」
「うん。で、それは赤ちゃんじゃないのね?」
「そうそう」満足げに頷(うなず)く桜子。「今日って言ったでしょう?さすがの私でも今すぐに子供を作って今すぐに産むことは出来ません」
「桜子さん、話がずれてます」「ごめんなさい」「いえいえ」
「そして今日の夕方に、義宏…お父さんの古い友人の娘さんが我が家にやってきます」
「わー、それなら凄いすごい。大歓迎です♪パチパチパチ」
「へへん」ようやく自分の思う展開になって鼻高々といった風な桜子に対し、思い出したかのようにぽそっと映見が聞いた。
「でも、それっていつ知ったの桜子さん」
「……春休み前」
「え?」
あまりにもさりげない答えにわが耳を疑った映見は思わず聞きなおした。ここ吉原学園都市は独自のカリキュラムで構成されており、春休みは三月頭から始まってるのである。そして今日は既に半分は過ぎている。
「……だから約二週間前かな」
「さーくーらーこーさーんっ!」
見る見る間に目がつりあがった映見の表情に脅える桜子であったが、それも一瞬で映見のモードは怒りから実務へと切り替わり、
「今からでも出来る限りの用意しなきゃ。何処出身の人?幾つなの?名前は?いつからいつまで滞在するの?」と足早に聞いていく。
「あのね、出身は確か北欧のようなことを義宏さんは言ってたっけ。歳はね、ちょうど礼と映見の間だって♪名前は長くて全部は覚えれなかったけどミカノって呼ばれてるんだって。今日から期限はおおよそ一年の長期ステイ。」
「…さりげなく凄いことを仰ってるんですけど」
「そう?」
桜子の口からこぼれ出てくる言葉で急に精神的疲労が溜まっていく映見。それが見てわかるくらいだから、体に良い訳ない。
「それって、留学してくるって事でしょう?」
「そうかもしんない」
大事な問題をさらっと流して答える桜子。目が笑ってるのを見ても、たぶんわかって言ってるのであろう。
「しかも私のひとつ上だってことは次の四月から高校一年という事じゃあないっ!」
「ピンポーン、正解です。よく出来ました」
完全に、自分の娘で遊び出した桜子。
「行く学校はちゃんと決まってるんでしょうね?」
「それについては、義宏さんが手を回して礼ちゃんと同じ学校に決めてくれてます」
もう既に、誰が見ても確信犯だとわかる…というか隠してもいないのだからある意味質が悪い。
「わー、もう四時回ってるじゃない、その子の部屋を用意しなきゃ。空いてるのって二階の客間ぐらいだよね、お姉ちゃんの部屋右隣の」
それでも、気丈に出来ることを少なくともしておこうと前向きに頑張ろうとする映見に、桜子は更なる追い討ちをかけた。
「ねえ、見てみて。ミカノちゃんにスリッパ買ってきちゃった。ほら、ここが口になってるの、黒いひよこさんなんだよー」
「桜子さん、いい加減にお母さんモードになってくださいよー。でないと私泣いちゃうよー」
「ぴよぴよー、私は鳴く事が出来ます~♪」
「えーん」
痛恨の一撃で、映見は真剣に泣き出した。
【教訓】子は親を選べない。
【2007/12/06朝に追記】
夜頑張って書きました、未チェックですので粗いです。いつものようにお願いします>関係各位(増えてもいいのになあ…とぽそり独り言)。
時間見つけて、どんどん書いていくもんね。追いつけないほどのスピードでっ!<…無理ですってば、仕事してるのに(笑)。
「れいー、えみー。いるーぅ?」
安田家に、買い物から帰ってきた桜子の声が響く。
「何~?」返ってきた返事はひとつ、次女の映見(えみ)のものだけだった。
トントントンと二階の自分の部屋から降りてきた彼女はキッチンにいた桜子に、
「お姉ちゃんは五月祭の準備で今日も出かけてまだ帰ってきてないよ」
と告げると、冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注いで飲んだ。
そんな娘を見て、ま、取り敢えずはひとりでもいいかと言う顔で、
「あのね言い忘れてたんだけど、今日から我が家に家族が一人増えます。じゃじゃじゃーん、凄いでしょう?」
と、得意げに告げた。
「わー凄いすごい!パチパチ……って言うと思いますか、桜子さん」
映見は手に持ったコップをテーブルに手荒に置くと、きつい表情で桜子を見つめる。
「え、言わないの?……しょぼーん」
娘の一人ボケ一人突っ込みに成長を感じながらも寂しげにつぶやく桜子であった。
「当たり前です。そんなこと突然言われても、何の用意もしていないのにどうするんです?」
「そうね、確かに用意はしなきゃ」
「で、いつなの予定日は?男の子?女の子?」
「え、誰か子供産むの?映見、お前まさか隣の実君と…」
「え?桜子さんじゃないの?」
お互いに顔を見合わせる二人。
「義宏さんとはかれこれ一年以上も……ぽっ」
「いや、口で『ぽっ』なんて言わなくても十分顔が赤いですし、それ以前に聞いてる私のほうが恥ずかしいんですけど」
「どうやら意思の疎通がお互い出来ていなかったみたいだわね」
ようやく、気を取り直した二人は話を整理し始めた。
「まず第一に家族が増えます。これはOK?」
「うん。で、それは赤ちゃんじゃないのね?」
「そうそう」満足げに頷(うなず)く桜子。「今日って言ったでしょう?さすがの私でも今すぐに子供を作って今すぐに産むことは出来ません」
「桜子さん、話がずれてます」「ごめんなさい」「いえいえ」
「そして今日の夕方に、義宏…お父さんの古い友人の娘さんが我が家にやってきます」
「わー、それなら凄いすごい。大歓迎です♪パチパチパチ」
「へへん」ようやく自分の思う展開になって鼻高々といった風な桜子に対し、思い出したかのようにぽそっと映見が聞いた。
「でも、それっていつ知ったの桜子さん」
「……春休み前」
「え?」
あまりにもさりげない答えにわが耳を疑った映見は思わず聞きなおした。ここ吉原学園都市は独自のカリキュラムで構成されており、春休みは三月頭から始まってるのである。そして今日は既に半分は過ぎている。
「……だから約二週間前かな」
「さーくーらーこーさーんっ!」
見る見る間に目がつりあがった映見の表情に脅える桜子であったが、それも一瞬で映見のモードは怒りから実務へと切り替わり、
「今からでも出来る限りの用意しなきゃ。何処出身の人?幾つなの?名前は?いつからいつまで滞在するの?」と足早に聞いていく。
「あのね、出身は確か北欧のようなことを義宏さんは言ってたっけ。歳はね、ちょうど礼と映見の間だって♪名前は長くて全部は覚えれなかったけどミカノって呼ばれてるんだって。今日から期限はおおよそ一年の長期ステイ。」
「…さりげなく凄いことを仰ってるんですけど」
「そう?」
桜子の口からこぼれ出てくる言葉で急に精神的疲労が溜まっていく映見。それが見てわかるくらいだから、体に良い訳ない。
「それって、留学してくるって事でしょう?」
「そうかもしんない」
大事な問題をさらっと流して答える桜子。目が笑ってるのを見ても、たぶんわかって言ってるのであろう。
「しかも私のひとつ上だってことは次の四月から高校一年という事じゃあないっ!」
「ピンポーン、正解です。よく出来ました」
完全に、自分の娘で遊び出した桜子。
「行く学校はちゃんと決まってるんでしょうね?」
「それについては、義宏さんが手を回して礼ちゃんと同じ学校に決めてくれてます」
もう既に、誰が見ても確信犯だとわかる…というか隠してもいないのだからある意味質が悪い。
「わー、もう四時回ってるじゃない、その子の部屋を用意しなきゃ。空いてるのって二階の客間ぐらいだよね、お姉ちゃんの部屋右隣の」
それでも、気丈に出来ることを少なくともしておこうと前向きに頑張ろうとする映見に、桜子は更なる追い討ちをかけた。
「ねえ、見てみて。ミカノちゃんにスリッパ買ってきちゃった。ほら、ここが口になってるの、黒いひよこさんなんだよー」
「桜子さん、いい加減にお母さんモードになってくださいよー。でないと私泣いちゃうよー」
「ぴよぴよー、私は鳴く事が出来ます~♪」
「えーん」
痛恨の一撃で、映見は真剣に泣き出した。
【教訓】子は親を選べない。
【2007/12/06朝に追記】
夜頑張って書きました、未チェックですので粗いです。いつものようにお願いします>関係各位(増えてもいいのになあ…とぽそり独り言)。
時間見つけて、どんどん書いていくもんね。追いつけないほどのスピードでっ!<…無理ですってば、仕事してるのに(笑)。
by hk-club
| 2007-12-06 01:11
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